この記事でわかること
- 金属盗対策法制定の背景と目的
- 対象となる「盗難特定金属製物品」とは
- 特定金属くず買受業を営む者に課される義務
- 指定金属切断工具の規制内容とは
- 違反した場合の罰則
- 金属盗対策法によって期待される効果
金属盗対策法とは?目的と対象をわかりやすく解説

金属盗対策法とは?正式名称や施行日を解説
金属盗対策法の正式名称は、「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」です。令和7年(2025年)6月に成立・公布され、犯行用具規制と盗難防止に関する情報周知については令和7年9月1日から施行、特定金属くず買受業に係る措置については令和8年(2026年)6月1日から施行されています。
金属盗対策法の目的とは?
この法律は、盗難された特定金属製物品の流通・処分を防止し、金属盗そのものを抑止することを目的としています。そのため、特定金属くずの買受けにおける本人確認や取引記録の作成、指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止などが定められています。
金属盗対策法の対象となる「特定金属製物品」「特定金属くず」とは?
金属盗対策法の対象となるのは、主に次の2種類です。
- 特定金属製品:銅など、盗難防止の必要性が高いとして政令で定められた「特定金属」を使用して製造された物品のうち、主としてその特定金属で構成されるもの
- 特定金属くず:主として特定金属で構成される金属くずのうち、製造工程で発生する端材や切削くずなどと、古物営業法上の「古物」に該当するものを除いたもの
現在、政令で定められている特定金属は銅のみです。そのため、主として銅で構成された金属製品および金属くずが法の対象となっています。また、青銅や真鍮などの銅合金についても、銅が重量または価額の50%以上を占める場合は対象となる可能性があります。代表的な例としては、盗難被害が多発している切断された銅線ケーブルや、撤去された電気設備由来の銅くずなどが挙げられます。
なぜ金属盗対策法が必要になったのか?その背景

金属盗の増加と被害の実態
近年、銅や鉄、アルミニウムといった金属価格が上昇したことで、金属を狙った窃盗犯罪が急増しています。警察庁の統計によると、金属盗の認知件数は令和2年の5,478件から令和5年には16,276件となり、わずか数年で約3倍に増加しました。令和6年には20,701件と約4倍に達しており、社会問題として深刻化しています。令和5年の金属盗の被害をみると、被害品目の半数以上が金属ケーブルであり、材質では銅が半数以上を占めています。
太陽光発電設備を狙ったケーブル盗難が急増
特に被害が集中しているのが太陽光電池発電設備です。年間の太陽光発電設備に対する金属ケーブル窃盗の割合は、令和5年が32.9%、令和6年上半期(6月末時点)が38.7%となっています。太陽光発電設備では、大量の銅線ケーブルが使用されているため、窃盗グループにとって狙いやすい対象となっています。
さらに被害は太陽光発電設備だけでなく、次のような設備にも及んでいます。
- 電力設備の銅線
- 通信ケーブル
- 鉄道設備
- 工事現場や資材置き場の金属資材
これらの金属盗は、単なる資産の損失にとどまりません。設備停止による生産損失や停電、通信障害など、企業活動や市民生活にも大きな影響を与えます。令和5年の金属盗被害総額は約132億8,700万円、令和6年の金属盗被害総額は約140億円へと達し、被害は依然として拡大傾向にあります。
古物営業法や金属くず条例だけでは対応できなかった理由

これまでも金属類の売買には、古物営業法や各都道府県の金属くず条例による規制がありました。規制の内容は、主には本人確認の義務化です。しかし、いくつかの課題が指摘されていました。
古物営業法の対象外となるケースがある
例えば、盗まれた銅線ケーブルが切断されてしまうと、本来の用途では使えなくなります。こうした物品は「古物」ではなく「金属くず」として扱われるため、古物営業法の規制対象外となるケースがありました。また、規制の対象であっても、例外の5品目を除き、総額1万円未満の取引については本人確認義務がありませんでした。(※1)
※1 令和7年10月1日施行の改正により、エアコンの室外機、電気温水器のヒートポンプ、電線、金属製グレーチングの4品目が、総額1万円未満でも本人確認が必要な古物として追加されています
都道府県ごとに規制内容が異なる金属くず条例
金属くず条例は地域によって内容が異なります。また、条例を制定している都道府県は全体の3分の1ほどであり、条例そのものが存在しない都道府県もあることから、全国で統一されたルールとは言えませんでした。
このような制度上の隙間を埋めるために制定されたのが金属盗対策法です。
| 古物営業法 | 各都道府県の金属くず条例 | |
|---|---|---|
| 対象品 | 古物 12品目(本来の用途で使用できるもの) | 金属製であり、古物営業法の古物に当たらないもの |
| 規制内容 | 本人確認や記録作成の義務 | 都道府県によって変わる |
| 問題点 | 古物営業法の「古物」に該当しない金属くずや、例外品目を除いた1万円未満の取引については、規制が及ばない | 条例がある都道府県は全体の3分の1で、全国で統一された内容ではない |
金属盗対策法で課される義務と規制
①特定金属くず買受業を営む者に課される義務
特定金属くず買受業の届出義務
金属盗対策法では、特定金属くず買受業を営む者に届出義務が課されます。全国共通のルールを設けることで、盗難品の流通防止につながります。
届出情報の表示義務
特定金属くず買受業の届出をした者は、氏名または名称、営業所の名称、届出をした公安委員会名、届出番号などの情報を営業所ごとに、見やすい場所に表示しなければいけません。
買受け時の相手方の本人確認の義務
特定金属くずを買い受ける際は、原則として買受けの相手方(売却者や取引する業者)が本人であることを確認しなければなりません。なお、一定の条件を満たす継続取引や自ら輸入する場合など、本人確認が不要となる例外があります。本人確認の方法は、個人・法人、対面・非対面などの取引形態によって異なります。法人との取引では、原則として法人の確認に加え、実際に取引を行う売却者本人の確認が必要となります。本人確認書類には、運転免許証、マイナンバーカード、登記事項証明書などが使用されます。また、本人確認事項に関する記録を作成し、3年間保存する必要があります。
| 個人(売却者本人) | 法人(売却元となる法人) | |
|---|---|---|
| 確認事項 | 氏名、住所、生年月日 | 名称、本店あるいは主たる事務所の所在地 |
| 本人確認書類 | 運転免許証、在留カード、マイナンバーカードなど (写真付きの本人確認書類) | 登記事項証明書、印鑑登録証明書 |
取引記録の作成・保存義務
特定金属くずの買い受けを行った場合、内容を記録し、3年間保存する必要があります。取引記録には、買受けの相手方(売却者・取引した法人)の氏名または名称、買受け日時、特定金属くずの量・特徴・価額、代金の支払い方法などを記録します。これにより、盗難品が発見された場合でも流通経路を追跡しやすくなります。
疑わしい物品の警察への申告義務
買受けに出された特定金属くずが盗難品である疑いがあると認めた場合は、直ちに警察官へ申告しなければなりません。例えば次のようなケースでは、盗難品の疑いを慎重に検討する必要があるため、注意が必要です。
- 本人確認を拒否する、または身分証に不審点がある
- 売却者がケーブルの入手経路を説明できない
- 大量の切断ケーブルを持ち込んでいる
- 相場とかけ離れた条件で売却を急ぐ
行政指導や立入検査への対応
特定金属くず買受業を営む者に対して、以下の行政措置が定められています。
- 指示
- 営業停止命令
- 報告徴収
- 立入検査
法令順守のため、社内ルールや記録管理体制の整備を欠かさず行うようにしましょう。
②指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止
ケーブルカッターやボルトクリッパーといった金属を切断できる工具のうち、特定金属製物品の窃盗に使用されるおそれが大きい一定の工具について、隠匿携帯が禁止されます。正当な理由なく対象工具を隠して携帯した場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。
指定金属切断工具の種別と要件

ケーブルカッターとボルトクリッパーのうち、下記の要件のいずれかに該当するものが対象です。
ケーブルカッター
- 長さ45センチメートル以上のもの
- ラチェット機構(回転式の刃体を特定の方向にのみ回転させる機構)を備えているもの
- 電気装置または油圧装置を備えているもの
ボルトクリッパー
- 長さ75センチメートル以上のもの
- 電気装置または油圧装置を備えているもの
指定金属切断工具の隠匿携帯とは?
隠匿携帯とは、車両のマットの下に置いたり、布や袋の中に隠すなどして、正当な理由なく他人から見えない状態で持ち運ぶことを指します。ただし、工事や設備点検などの業務上必要な場合は対象外です。
③盗難防止に関する情報の周知
警察などの公共機関から、金属盗の防止に関する情報が提供されます。金属盗の被害に遭うおそれが大きい場合に対して、情報を周知させることが目的です。
金属盗対策法で違反した場合の罰則

なお、法律上の義務の全てに直接の罰則が設けられているわけではありません。違反内容によって、罰則のほか行政処分の対象となる場合があります。
特定金属くず買受業の届出義務違反
以下の場合、6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、もしくは両方を科されます。
- 特定金属くず買受業の届出をしなかった
- 自分の名義を他人に貸して特定金属くず買受業を営ませた
以下の場合には、30万円以下の罰金が科されます。
- 届出や添付書類に虚偽の記載をした
- 廃業や届出の内容(営業所の所在地を除く)に変更があっても届出をしなかった
指定金属切断工具の隠匿携帯の禁止違反
正当な理由なく対象工具を隠して携帯した場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。
行政措置や命令に従わなかった場合
- 営業停止命令に従わなかった場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、もしくは両方を科されます。
- 報告・立入検査を拒否した場合、30万円以下の罰金が科されます。
金属盗対策法によって期待される効果

金属盗対策法によって盗難品を売却しにくい環境が整えば、犯人にとって盗難のメリットが小さくなり、結果として犯罪抑止につながります。
この法律によって期待される効果は、金属盗の抑止や盗難品の流通防止だけに留まりません。電力・通信・交通インフラの保護、事業者の被害軽減による経済活動の活発化、地域社会の安全向上へとつながっていきます。
まとめ
金属盗対策法は、近年急増する金属盗への対策として制定された重要な法律です。特定金属くずの買受けを行う事業者には、本人確認や取引記録の管理など、これまで以上に適正な取引が求められます。一方で、設備を保有する企業や一般の事業者にとっても、盗難防止対策の重要性が高まっています。
私たちリサイクル業界には、資源循環を支える役割に加え、盗難品を市場に流通させないという重要な社会的責任があります。金属盗対策法を正しく理解し、適切な対応を進めることが、安全で健全な資源循環社会の実現につながるでしょう。





